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■ 困った時は2015. 1.31

 法隆寺や薬師寺などの国宝級建造物などを修復してこられた、宮大工棟梁の滝川昭雄さん、手がけた寺院は百を超えるそうだ。古代建築に設計図や資料は残されていない。現在残っている古代建築物の一つひとつを答えだとすると、答えを導き出す計算式はわからないが、答えだけはわかっているという状態だ。復元は難しい仕事で、それが可能なのは、様々な復元修理を通じて、答えから計算式を導く方法を学んできたからだと言われている。
 このことを、合気道に置き換えて考えてみると、同じことが言えることに気が付いた。私にとっては、合気道の技は山口先生の技が答えで、それを目指して稽古を重ねているが、そこに至る計算式、つまり稽古方法は示されていないのと同じだ。国宝級の建築物を数多く復元するという体験は、まさに多くの、良く鍛錬された人を相手に技を掛け合うということだ。
 昔から、職人の世界では見習いであっても仕事は教えてもらえないのが常識だった。宮大工の滝川さんも例外ではない。中学卒業後、宮大工見習いとなり、仕事のできる先輩の立居振る舞いから、道具の使い方まで全て真似て覚えた。戦後、需要のない宮大工から住宅建築に転向しなかったのはひとつの理由があった。
 小学五年生のときの陸軍パイロットの小学校での講演を聞き、『困った時には反対方向を考えよ』と教えられたことからだった。急降下訓練での体験談で、下降する機体を持ち上げるため、どんなに操縦桿を引いてもきかない、そこで一瞬の判断で逆に操縦桿を押し、もう一度引くと、機体は上昇し助かったという。そのパイロットは戦死されたが、その言葉は心に深く刻まれ、判断に迷った時の指針とされた。
 これはまさに、合気道の崩しの原理と同じだと思った。窮地に立った時、反対方向に動かすことは、冷静にならないとできないことだ。合気道の技で、押さえようとして抵抗されると、さらに力を加えてしまうのだが、一瞬逆に引いて、固まった状況に動きを与え、そして押さえる。冷静になれるか、うまくいくかどうか・・・


合気道光輝会/大畑博