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■ 脳への刺激2016. 7.31

 日本人女性の平均年齢86.83才を超えて91.9才の母。アルツハイマー型認知症と診断されて七年になるが、その進行を止めることはできない。夜の徘徊は薬で抑えることはできたが、記憶力の後退はどうすることもできない。自分の子と孫、曾孫の区別がつかなくなり、「早く嫁をもらえ」とも言う。デイサービスの連絡帳には、夢を見たのかどうかわからないが、「私は息子に捨てられた」と職員に話す様子が書かれていた。しかしそれは、いつの日か、確実に、現実のものとなるが、前向きにこの事実を捉えたい、身を賭して母が息子に贈る“時間”の贈り物として・・・。
 生きて命のある限り合気道を続けるためには、身体も大切だが、頭をボケさせてはならない。私自身、記憶力も徐々に悪くなってきているが、一番悲しいのは、足し算、引き算の暗算に時間がかかるうえに、よく間違えることだ。合気道の稽古で暗算対策は思いつかないが、稽古をすることが、脳を刺激していることになる。
 子ども達に、指先を伸ばしなさいと言うと、たいていの子は言われるとおり指先に力を込めて伸ばすことができる。しかし、足を動かし、意識が指先から他に移ってしまうと元に戻ってしまう。言われたとおりにできる子は、自分の身体を自分の意志でコントロールできる、なかなか珍しい。逆に大人は、力を抜こうとしても、相手に影響され、相手を投げることに意識を集中するため、力を抜くことができない。私はまだその域に達していないのだが、高段者になれば、相手の力を逆に利用して力を抜いたまま投げることができる、まさに「ごちそうさん」という訳だ。双方が、力を抜くことに意識を集中して、稽古することが大切だ。
 山口先生が他界される三か月まえの広島稽古で、「死ぬようになってようやく合気道がわかってきた」と私におっしゃった。その中身は比較にもならないが、最近ようやく合気道が“すばらしいものだ”と人にも言えるようになった。高齢になれば認知症も他人ごとではない。脳を錆びさせないよう稽古に精進したい。稽古は休んではならない。目標を持って稽古すれば必ず実を結ぶ時が来る。暑さにマケルナ!